問題行動治療のお薬について

当院では行動診療を行っておりますが、その際、環境修正(行動が発現しにくい環境にすること)や行動修正(しつけではなく、学習によって対応すること)に加え、お薬を使うことも少なくありません。しかしどうしても精神疾患領域のお薬に関しては、誤解や世間の偏見などもあり、抵抗感をお持ちの方もまだまだ多いです。今回は、その溝を少しでも埋められるように解説してみたいと思います。

目次

投薬治療について

ぴよ

行動診療を受けると、絶対お薬を飲まなきゃいけないの?

獣医師

ぴよちゃん、よい質問ですね。
行動診療では、かならずしもお薬を使うわけではないんですよ。

ぴよ

へぇ~、そうなんだ。
じゃあ、どんな時にお薬を使うの?

獣医師

獣医師が脳の疾患や脳の機能異常と診断した時に、それらの薬を提案します。

獣医師

よくある例では

・常同障害:尾追い行動、過剰グルーミング、脇腹吸い、フライバイト、ウールサッキングなど、人の強迫性障害のような状態
・音恐怖症(雷やそれぞれの特定の音:複数の場合が多い)
・分離不安症
・全般性不安障害
・転嫁性攻撃行動
・恐怖・防御性攻撃行動 など

その他たくさん

補足:
そもそも【問題行動を誘発する可能性のある疾患】の除外診断は重要です。それが原因であればその治療をおこない、併発している場合は両方の治療をします。

獣医師

「脳の機能異常」が併発していると考えられる状態を、“整えるため”に使います。

ぴよ

どういうこと?

獣医師

例えばストレス状態が長く続いて、『いままでならスルー出来ていたことが、気になりすぎてすごく敏感に反応したり、自力での気持ちのコントロールが難しくなる』ことはない?

ぴよ

わかる!
この前、夜中にね、アパートのドアをドンドンたたいたり、ドアノブをガチャガチャ回す人がいて怖かったの。それからアパートの廊下に人の足音がすると、胸がキュッとして苦しかったんだ。心臓のバクバクもおさまらなくて。

ぴよ

警察にも通報したけど、部屋を間違えていただけらしいんだよね。同じアパートの人だったみたいで、後日あやまりに来てくれたんで、原因も分かってホッとした。

ぴよ

それを聞いて、しばらくしたら気持ちが落ち着いてきて、いまは気にならないよ。

獣医師

あらら、ぴよちゃんそれは大変だったね。
気持ちも落ち着けて良かったね。

獣医師

それが、ずっと気になりすぎて生活に支障を来したり、食欲や胃腸の状態など体調に異変があるようだったら大変ですよね。

獣医師

いくら自分で努力しても、落ち着きたくても落ち着けない事ってあるでしょ?

獣医師

そんな時にお薬を使い、脳の機能を整えてあげるんです。

ぴよ

じゃあ、お薬だけ飲んでいたら、治るんだね。

獣医師

説明が足らなかったですね。
お薬を飲んで脳の機能を整えるのですが、そもそも投薬は治療の補助でしかないんですよ。

獣医師

お薬の効果が出始めてすぐは、ドキドキしていたのが落ち着くかもしれない。

獣医師

けれど、“またドアノブを、ドンドンされるかもしれない状況”が変わらなかったら、またドキドキが止まらなくなって、元に戻るよね。

獣医師

投薬だけの治療では、そんな風になっちゃう子が多いんだよね。

ぴよ

たしかに。それはめっちゃ怖いよね。

獣医師

その状況だと、『お薬が効いていない』と判断されてしまうことがよくあるけれど、それは違うってことを分かってもらえるかな。

獣医師

そんな状態で、いくらお薬を変更したり増やしたりしても、効果はないよね。

獣医師

行動診療では、その行動や状態が起きたきっかけを探していきます。

獣医師

たとえば、痛みや気分の悪さなどの体調不良がベースにあって、それに他の条件が重なると発現するなど、何が原因か、何が引き金かなど探っていきます。

獣医師

そして、それらが起きない状況を作ったり、無理せずに慣れる学習をしてもらったりするのです。

獣医師

人間でいう認知行動療法みたいなものだけど、人みたいに自分で自覚して行動してもらうわけではないので、一緒とは言えないけれどね。

獣医師

診断を行った結果、薬が無くても治療を進めていけそうな状況だったら、お薬は処方しません。

獣医師

ですが、薬があることで「より敏感さを下げられ、学習速度を速めることが出来そう」であったり、「現時点で環境の改善や学習をしたくても、うまくすすめられそうもない」と判断した時に、薬がとても有効なのです。

獣医師

また、初診の時点では薬が無くても大丈夫そうかな?と判断しても、実際治療をしていく途中で、「やっぱりお薬を使った方が良さそうだ」と判断を変えることももちろんあります。

獣医師

それは、どの病気でも同じですよね。

ぴよ

じゃあ、落ち着いたら止められるんだね。

獣医師

原因にアプローチ出来て、その後も取り組むことで、お薬を終了しても大丈夫な場合が多いです。

獣医師

ですが、どうしてもそれらを避けられない環境だったり、状況が発生する場合は、お薬を上手に使いながら生活する方が良い場合もあります。

獣医師

また元々生まれ持った体質で、お薬を必要とする子もいます。

獣医師

たとえば、ADHDの犬などではお薬で調整することで生活しやすくなりますし、怖がりだったり敏感で元々セロトニンの分泌が少なさそうと想像される子も、お薬の力を使いながら生活する方が生活の質(QOL)をあげることが出来ます。

獣医師

分かりやすく、他の病気に例えてみますね。

『1型糖尿病の時に、インシュリンを使わないで生活しよう』という方はほとんどいないと思います。体から不足しているものを入れることで、正常な体の機能を保てるのであれば使いますよね。

獣医師

またてんかん発作でも、抗てんかん薬を使い生活の質を保ちますよね。

獣医師

QOL(クオリティー・オブ・ライフ)生命や生活の質に注目する考えです。

ぴよ

そうだね。
薬なんて使いたくないって思っていたけど、『体から不足していたり過剰だったりして、調整する力が落ちていたら、使った方がQOLが改善する』といった動物福祉の観点から考えても、大切な選択肢だね。

獣医師

ぴよちゃん。
今日も、とても良い質問をたくさんしてくれてありがとう。
またいつでも、質問してね!

ぴよ

はい。
多くの方に、この情報が届くといいよね。

まとめ

①行動診療では、かならずお薬を使うわけではありませんが、使う頻度は多いです。
②精神薬や脳神経系のお薬を使いますが、脳の機能を調整するものであり性格を変えるものではありません。
③薬の種類によっては、ボーッとしたりすることもありますが、量や種類の調整で改善できます。
④薬の作用機序、調整や変更および減薬方法など特別な知識が必要なお薬を多く使用します。事前に想定される副作用を知っていることで、飼い主自身も落ち着いて対応できます。せっかく効いている薬を止めなくても済むことも多いです。薬の特性をご存じの獣医師からの処方をおススメします。
⑤脳神経の機能異常を起こしている状態では、環境を整えたりトレーニングを頑張っても、かなり精度を上げないと難しいことが多いです。
⑥それらの成功率を高めるためにも、【少しでも早く】辛さを取るためにも、薬の使用という選択肢が広まる事を祈っております。

脳の機能異常が長く続けば続くほど、治癒率は下がります。一刻も早く治療介入する必要があります。

できるだけ早く脳の機能を整えるために、行動診療を受診される事をお勧めします。

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わんにゃん暮らしのアドバイス(お薬による問題行動の治療)入交眞巳先生監修

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