*当院は、獣医行動プラクティショナー(日本獣医動物行動研究会)認定の獣医師が診察する動物病院です。
近年、YouTubeやTwitter、note、その他のネット情報があふれ、しつけに関する内容も目にするようになりました。
まだまだ質に問題のあるものが大半ではありますが、中には参考になる物も増えてきました。しかしそれでも、どうしてネット情報だけで改善しないのでしょうか?
私はしつけという言葉を使うのが嫌いです。しかし分かりやすくするためにあえて、しつけという言葉を使います。トレーニングも同様です。
動物病院としての行動診療
私は獣医師です。
そのためまず、それらが病気やケガが原因で起きていないかの精査する事から始めます。スタート時に見つからなくても行動診療をすすめながらも、常に病気が隠れていないか見落としが無いか、定期的に見直していきます。そのため優秀なトレーナーさんは動物病院で問題行動が起きそうな病気が隠れていないか、診察をうながすはずです。様々なトレーニングのセミナーでも、そのような指導をされることが近年では多いです。
疾病により起きている問題行動は、ネット情報でいくらスキルを身につけても解決は出来ません。
膀胱炎でトイレが間に合わなくて失敗をしていたり、関節の痛みがあって触って欲しくなくて噛みついて来ていたり、また、ホルモンの病気でメンタルのバランスが崩れ、気持ちの浮き沈みで攻撃行動に繋がっているのに、トレーニングで解決しますか?
それは虐待です。
しつけは動物の訓練なのか?
多くのしつけに関する情報は、動物の問題行動を改善しようとする手法が発信されています。しかし、私が問題行動のカウンセリングをする際には、それらは使いません。
むしろ、聴取と環境改善などが9割以上と言って良いです。
だから、ヒールポジションやキープレフト、脚足歩行と言ったような、ビシッと犬を横に着けて歩かせるトレーニングもしません。軽くでも首に刺激を与えるショックやチョークも行いません。服従訓練など以ての外です。すべてが自発的行動では無いからです。
問題行動
例えば
- 吠える
- 咬む
- 盗み食いをする などなど
それらの問題があった時にどうしますか?
叱ったり、抑え込んだり、オヤツ(ほめるしつけ?)を使って、それらを止めさせようとしますよね。
私はそんなこともしません。そもそも、オヤツを使えば=「ほめるしつけ」でもありません。
なぜその行動をするのか
そもそも動物は、なぜその行動を選択しているのでしょうか?その理由は簡単なものではありません。カウンセリングの際に私も、飼い主様の思考の練習のために質問する事はあります。
しかし、そんな単純な事ではない場合が多いのです。主観で答えてしまっていることが、ほとんどです。
客観的な評価のために行動観察記録を取ってもらい、動画を提出してもらい、それらによりデータ取りして、彼らの行動を分析します。
どのようなことでその行動が強化されているのか、弱化されているのか、何が強化子なのか、弱化子なのかなど、オペラント条件付けに当てはめて行動を考えます。
2021年から22年にかけ約8か月間応用行動分析学(ABA)を学びました。それに基づき主観や感情や感覚からではなく「行動を科学」していきます。
その行動を止めさせると
彼らは、彼らにとって必要だからこそその行動を選択しているのです。
ですから、仮に私たちにとって都合の悪い行動を制御出来たとしても、別の行動を選択してしまう可能性があるのです。もっと都合の悪い問題行動に変化するかもしれません。吠えが強くなったり長くなったり、咬まなかった子が咬むようになってしまったりなど。
そのためにはどうしたら良いのか
それらを考えるのがカウンセリングなのです。
環境の操作で対応する事が大半となり、彼らの行動を変えるトレーニングは、ごくわずかなことも実は多々あります。
その際のキーワードは、初めにも少し触れた「自発的な行動」かどうかを考えていきます。
動物福祉基準が満たされているか
しつけやトレーニングにおいて、多くが動物福祉基準が抜け落ちていることが問題です。当院は20年近く動物の福祉を積極的に学んでおります。(愛護とは異なります)
5フリーダムや5つの領域といった考えに基づき、彼らから何かを奪うのではなく、できるだけ満たすことによって別な行動を自発的に選択していただくという考えを、可能な限り提案させていただいております。
どちらが譲歩するのか
もちろん飼い主様はとても困られて大変な状態です。だからこそ行動診療に来られているのだと思います。
ですが、動物たちも困っているのです。そのお困りごとを助けられるのは飼い主様しかないのです。動物をサポートし助けることで、結果として飼い主様のお困り事も解決するという方法を、私の場合は提案する事がほとんどです。動物を矯正する事はありません。
預かりトレーニング
そのため預かりトレーニングも必要ないし意味がないと思っております。ゼロではありませんが、預かりトレーニングを行うのは、かなり限定した特殊なケースに限られます。
動物との大切な時間を、訓練士さんに預けっぱなしにするのですか?動物たちと共に過ごせる時間の何分の一に当たるのでしょうか?そう考えるとかなり長い間を捨てていることになります。取り戻せない貴重な時間。
そして先にも書いた通り、動物を変えようとするトレーニングは無意味です。むしろ、環境の改善に力を入れる為、私がトレーナーさんを紹介する際は、訪問タイプのトレーナーさんと連携しています。環境と行動を分析するからです。
時間と共に治るのか
既に問題行動が出ている場合は、時間が経てばたつほどこじれていきます。自然に改善する事はありません。仮に自然に改善した場合は時間と共にではなく、何かしら変化があったからこそ行動が変わっているのです。必ず理由があります。また、もしかしたらそれは馴化かもしれませんし、逆に学習性無力により心を病んでいるだけかもしれません。
そこの分析無くして自然に任せるのは、大バクチを打つのと何ら変わりません。
様子を見る
これは一般の病気やケガでもやって欲しくない事です。病気同様、たまたま運よく治ったなら良いですが、悪くなった場合は元の状態を取り戻すことが出来なかったり、元に戻ったとしてもとても時間と労力を要する事があります。また、完全に元に戻るとは思わない方が良いでしょう。
常に学習し、行動は変化しています。
そして他の疾患同様、獣医行動学と言う診療科目があります。行動診療科がある動物病院を受診しましょう。
問題行動は予防が一番
病気やケガの予防と同じです。問題が発生しないように取り組むのが一番です。動物との関係が悪くなります。問題行動が出てからはそのあと改善出来たとしても、全く何も無かった状態とは異なります。
疾病に例えると、骨折はまさにそうですよね。ある程度の機能は治るけれども、完全に元の状態では無いし、元には戻れない。出来るだけ骨折しないように予防策を取りますよね。
また、フィラリアになってから治療をすればよいと考える方は、近年ではほとんどいなくなったと思います。ワクチン・フィラリア・ノミダニ・避妊去勢手術が今では当たり前ですが、一昔前は普通ではありませんでした。その時代の方にとっては、ピンとこない事だったと思います。
だからこそ行動の予防がいま分からない方は、何年かたって振り返った時に、「当たり前と思える事が、いま出来ていない」と、未来の自分だと普通に言える時代が来ると思うのです。
その時に気付けばよいですか?動物との幸せな生活はそんな先で良いですか?
行動は常に変化する
繰り返しますが、常に行動は変化します。そのため、一度勉強すればずっとどうにかなるというものでもないです。幼少期にトレーニングをすれば一生何もしなくても問題が起きないなんてことはありません。常に彼らが困らないように、困って自発的に人にとって都合が悪いとされる行動を選択してしまわないように、手助けをする微調整が必要です。そのためには誰をたよりますか?自力ですか?
一足早く、動物との関係を構築し、ハッピーな彼らとの生活をおくりたいと思いませんか?何のために彼らを迎えたのか、もう一度考えてみましょう。
問題行動は自力では解決できない
以上の事からも、問題行動は自力で解決する事は不可能と思っていただいた方が良いです。病気やケガをした時にすぐに動物病院に来られるように、問題行動の兆候に気付いたら、まだ程度が軽いうちにすぐに受診してください。でもそれよりも何よりも、予防なのです。
行動の予防のために
当院では、通常の動物病院では出来ない「行動の予防のお話」が出来ますし、動物病院嫌いにしない取り組みも行っております。問題行動が発生していない段階では、短い時間であれば当院で予防に取り組まれている方には、無料でアドバイスさせていただいております。問題行動が発生した際は、早めにカウンセリングに移行することが出来ます。聴取に時間がかかるためです。
問題行動が起きないような取り組み。本当のほめるしつけを伝えることが出来る動物病院です。
当院では、これらの知識を得るためにセミナーに参加し、時間と労力を投じております。一般的な動物病院では経験だけで指導されるところがほとんどですが、それにより問題行動を悪化させてしまい、カウンセリングで苦労されている飼い主様がとても多いのが、現状です。
私達の動物病院が利便性が悪いため思い切ることが出来ないかもしれませんが、もっとその先の苦労がある可能性を考えて、行動予防に取り組んでみませんか?もっと時間やお金を圧迫しますし、その努力をしても予防に勝るものはありません。
このような事を出来る動物病院は、福岡県でもわずかしかありません。近年は、佐賀県や熊本県など他県からもいらっしゃいます。
でも、無理強いもしません。飼い主様自身も「自発的な行動」を「選択」なさってください。人から無理強いされ動いても、結果、幸せになれないからです。