*当院は、獣医行動プラクティショナー(日本獣医動物行動研究会:リスト)認定の獣医師が診察する動物病院です。
動物たちのストレスを正しく理解出来ている方は、ほとんどいないと思っております。少なくとも、「うちの子はストレスが無いです」と言われてしまう場面では、これ以上どうお話をしたらよいかととても頭を抱えます。ストレスが無い子はいません。その理由を書いてみます。
私の経験
米国獣医行動専門医の先生のセミナーにずいぶん昔に参加する事がありました。その際習ったストレスサインのボディランゲージから、うちの子には当てはまらないのではないかと疑問に感じ、先生に質問させていただきました。
しかし、その答えは「ストレスサインです」でした。正直ショックでした。全力でかわいがっていましたし、私はどの獣医師よりも行動学を学んでいると思ったからです。そしてそれから何年も過ぎ、その子も他界しました。
それから私もこの分野を集中して学ぶようになり、やはりあれはストレスサインだったのだと気付くようになりました。だからこそ、この経験を多くの飼い主様に伝えられます。ストレスに配慮した動物病院つくりをしていた私でさえ、分かっていなかったストレスサイン。受け入れ難かった気持ち。もっと早く、あの時に理解してあげることが出来たら…という後悔。がまんさせていたんですね…( ノД`)シクシク…
だからこそ、多くの飼い主様も私に「ストレスですよ」と言われてもピンとこないでしょうし、そんな事を言われても「うちの子は普段リラックスしている」「ストレスのかかるような飼い方はしていない」と思いたいと思います。しかし、やっぱりそのボディランゲージはストレスサインなのです。そこで耳を傾けて下さるか、ご自身の子の事はご自身が一番わかると思われるのか。私がもっと早く素直に耳を傾けていればと言う後悔の気持ちをシェアしたくて、普及活動に頑張っています。
もちろん私よりも分かっていることも多いと思います。であれば、そこで私のお手伝いは終わると思います。私は飼い主様より分かっていないのですから、無理をして耳を傾ける必要はないと思うからです。無理強いではなく、飼い主様もご自身で選択されることの大切さを実感して欲しいと思うからです。
人と動物は違うというリスペクト
動物たちとの生活は、リスペクトから入って欲しいと思っております。しつけや支配ではありません。教育したり服従させるものではありません。
私たちが異種の動物を人間社会に、自分たちの欲求を満たすために勝手に巻き込んでいるだけです。つまり、動物を飼育するというのは人のエゴなのです。そこを自覚すると、動物たちに対して申し訳ない気持ちが生まれ、寄り添う気持ちが大きくなれると思います。
さまざまな制限
動物たちは、私たち人間と違ってすべて自分で選択出来ません。
- 温度や湿度管理
- 洋服を着たり脱いだりも自由に出来ません。エアコンの温度設定も自分で変えられません。私たち人間が勝手に想像し決めているだけです。
- 食事のタイミング
- 私たち人間は自分たちで調整出来ますが、動物たちは人間に支配されています。例えば採食エンリッチメントを取り入れて、自由に探して見つける工夫を十分されていれば別かもしれませんが、そうでなければ人間が管理して、動物たちには選択肢が十分でない事を分かってください。
- 睡眠
- ゆっくり寝たくても様々な障害があるかと思います。部屋の明かりや生活音。つまり、これらも彼らが自由に選択できるわけではありません。
- お出かけ
- お散歩や車などを使いお出かけする。もしくは飼い主さんが出かけていなくなってしまう。私たち人間であれば、それらの選択は自由です。
- 遊び
- 遊びたい、遊びたくない、それらの選択も彼らが十分出来ていますか?
- 同居動物
- 複数いる方が動物たちが寂しがらないと思われがちですが、逆にストレスになることも多いのです。他の動物との距離感や様々な関わりにおいて、気付かないうちにストレスに感じていることはたくさんあります。
- その他
- 書ききれませんが、その他たくさんの自分で選択出来ないことやストレス要因があることに思いを巡らせましょう。
選択させているようであっても、実際はかなりの制限下で生活させてしまっています。それらに思いを巡らせると「可能な限り選択肢を与えられる生活をプロデュースしたい」と思えるようにならないかなと思いますが、いかがでしょうか?
ストレスをどのように判断していますか?
ストレスをどのように評価していますか?と質問しても、多くの飼い主様が、感覚的なものでしか答えられないと思います。客観的に評価出来るのが、ボディランゲージなのです。動物たちが無意識に行うストレスサインです。
ボディランゲージは、画像資料や動画を交えて説明する必要があるため詳細は省きますが、そもそも真逆の解釈をしてしまいそうなボディランゲージは、たくさん存在します。
つまり犬語、猫語を学ばず感覚的にとらえていると、とても危険なのです。
今回他の方に情報を共有したくてネット検索をしたのですが、まだ、あまり良質な資料にはたどり着けませんでした。ネットにはまだまだ良質な情報は少ないです。
そのため、例えばInstagramやX(旧Twitter)などに出てくる静止画や動画では、真逆の解説がついている画像があふれています。そして、それらを「かわいい!」「癒される」「ほのぼのする」などほめたたえて盛り上がっています。動物のストレスサインが分かると胸が苦しくなります。飼い主様は精一杯かわいがっているつもりなのかもしれませんが、動物側は迷惑行為を撮影されネット投稿されているという文脈なのです。
真逆の解釈
動物たちがHelpを出しているサインに対して、唯一の味方である飼い主が「楽しんでいる」とか「リラックスしている」と言った間違えた解釈をしてしまっていては、どうしたら良いのでしょうか。
私も普段診療をしていて、ストレスに関しての助言をさせていただく事がほぼ毎回なのですが、それに「うちの子はストレスがありません」とおっしゃられる方は、かかりつけの方ではいらっしゃいません。すごい事ですよね☆彡
かかりつけの方は、とても皆さんストレスをくみ取ろうと努力なさっている方ばかりですから、平均的な飼い主様より配慮が上手です。でも、というか、だからこそ、私が言うストレスのアドバイスに耳を傾けて下さいます。
- うちの子はストレスが無いです。
- 問題無いです。
と耳を傾けていただけない場合は、申し訳ありませんが当院でお手伝い出来る事はあまりないかもしません。
それは西洋医学的な治療の調整にしても、中医学(漢方の大元の学問)でも、獣医動物行動学でもです。
特に中医学的には、ストレスがすべての病気の根底にある可能性がとても高いのです。獣医動物行動学では、言わずもがなですよね。
それくらいの事
「それくらいの事」とおっしゃられる方も、もうそこでお話は終わるでしょう。
なぜなら、それくらいの事って、私たち基準で判断しているだけです。
もしご自身がとても気になる事や嫌なことを、「それくらい」と相手の尺度で切り捨てられたらどう思いますか?
私は、獣医行動プラクティショナー(日本獣医動物行動研究会)の立場から、「それくらい」と人に言われてしまい困っている動物たちの代弁者になりたいと思っております。
それを受け止め、出来るだけ配慮し調整を繰り返していくことで、動物たちとの距離が少しずつ縮まり、安心出来る関係になっていくのだと思います。その距離を少しでも近くし、異種の動物同士が出来るだけ不快を減らし共同生活出来るお手伝いをしたいと思っております。
動物たちに感謝を
初めにも書いた通り、私たちの豊かな生活のために、彼らを利用しているだけなのです。動物福祉では功利主義と言います。
私たちが、彼らに何の不自由もない生活が出来ていると勘違いをしているからこそ、”十分な配慮が行き届いている思っている”からこそ、様々なひずみが生じています。
動物たちは、私たち人間の言語や生活パターンをしっかり観察し、理解しようとしてくれています。なぜならそうしないと彼らは生活出来ないからです。とても努力をしてくれていますが、異種の動物ですから人間の行動を正しくくみ取ることは、不可能です。
彼らにばかり学ばせて、私たちは自己流の解釈で済ませてしまうのではなく、学術的な研究に基づいた彼らの言語を学ぶ機会があるわけですから、それを怠っていることを自覚しましょう。
彼らを人間社会に巻き込んだのは、私達です。彼らがあなたとの生活を勝手選んで来たわけではありません。
だからこそ、飼い主として責任をひしひしと感じ、しっかりと動物たちの事を学びましょう。