各種疾患のための特別療法食を当院でも使うことは多いですが、当院で扱うものとしては腎臓食がメインです。なぜなら腎臓食はタンパクを制限するため、とても調整が難しいからです。
一方、全国的に処方量が多いのは消化器系のフードのようです。ですが当院では、ほぼほぼ処方することはありません。なぜなのか考えてみました。
診察
寄生虫の有無や細菌のバランス、消化の状態などのチェック
まずは、寄生虫の感染がないかしっかり診断したり駆虫薬を与えたりします。
大原則です。もちろん1度の検査で見つからないことも多々あります。また、散歩やペットホテルで感染することもあるため注意が必要です。さらに腸内細菌の状態などその他の便の情報を収集します。
食物アレルギーなどの除外診断
食物アレルギーというと、皮膚症状を思い浮かべるかと思います。もちろん食物アレルギーによってかゆみが出る症例もありますが、消化器症状として現れるケースも結構あります。
下痢や軟便、嘔吐、食欲不振などです。
そのような疑いがある場合は、除去食といわれるフードを与えて症状が改善するか観察し診察させていただきます。その時の注意点としては、野菜や果物も含めたすべての食事やオヤツを与えないことが重要です。せっかく除去食試験をしているつもりになっても、それらに反応することもあります。
また、人の食べ物を与えたり食事中にこぼれた物を食べたり、散歩中にゴミや他の動物の排せつ物などを食べたりする子も注意が必要です。
そのような治療で落ち着いてくるケースでは食物アレルギーを疑い、さらに診察を進めていきます。
さらに食物アレルギーではなくても、例えば乳糖不耐症の子に対して牛乳を与えると下痢の原因になりますし、脂肪分が多い食事も下痢をします。
また話はそれますが、脂肪分の多い食事を与えると膵炎という病気になり死亡してしまうこともあります。そのように合わない食事もあります。全般的に食事に原因があるのかなど探していきます。
その他
年齢や品種、下痢を起こし始めた状況の聴取、下痢を起こす疾患の除外診断を行います。
診察で原因が見つからない場合
環境の改善
当院では症状があってもなくても、温度湿度に関してとてもていねいに管理していただきます。以前は「人がいるときは空調管理をしているが、出かけている最中は、換気扇であったりペットヒーターのみで管理」される飼い主様もいらっしゃいましたが、最低でも人がいる時以上の管理をした方がよいと思います。その方が病気になりにくく、結果として費用も掛かりません。
中医学の観点からいうと下痢にも寒熱や虚実があり、冷えの下痢と熱の下痢があります。何でもかんでも下痢の時は温めるという考えがありますが、熱性の下痢の場合は冷やすお薬が必要ですし、当然冷えの下痢の際は温めるようにしなければなりません。
全般的に臭いが薄くあまり痛みを伴わない下痢は、冷えや虚によるものが多く、臭いがきつく痛みを伴うものは熱性や実の下痢であることが多いです。
ストレス
当院では行動診療にも力を入れ特徴としているため、ペットのストレスにはかなり注目して治療を進めていきます。
ストレスは、遺伝的要因や妊娠時の母犬のストレス状態や栄養状態、生まれてからおうちに来るまでのストレスや栄養状態の悪要因で、おうちに来る前からのことであってどうしようもない部分により、気質としてストレスを感じやすい体質の子はいます。
そういった子には、ストレスを防ぐためのアプローチや環境設定をていねいに行うことで、体調が劇的に改善するケースが多々あります。また動物病院だからこそ、それらをより効果的に発揮できるためのお手伝いとして、「漢方やメンタルに作用する薬剤の使用」を提案できます。
そもそも私自身の何十年にもわたる下痢が、ストレス治療で完治しました。
まとめ
今回は簡単に書きましたが、飼い方にアプローチすることで、食物アレルギーや食物不耐性以外で特別な食事を与えなければならない症例は、当院ではとても少ないです。そのため消化器系フードはここ何年も取り寄せたことがありません。
漢方診断をスタートする前から、もともとこれらのことに力を注いでいる動物病院です。
漢方の概念は薬を飲むことが目的ではなく、全体とのバランスを取ることを大切にします。それは季節との調和も含まれます。エアコンでコントロールしているのに体調を崩すのは、季節により弱る臓腑があるという考えで腑に落ちます。
病気の予防はワクチンやフィラリアだけではありません。元気で長生きしてほしいと願う飼い主様が多いと思います。お時間や費用が許すようであれば、1歳未満から漢方診断を受けている子も多数いますし、犬猫だけでなくウサギなどでも、継続して養生のために漢方診断に来られている方もいます。
ストレスと漢方や飼育環境のアドバイスに力を入れています。
これらのことが当たり前になってくると、動物との生活がもっと充実したものになりますよ。
